津地方裁判所 平成8年(わ)192号 判決
裁判所書記官
今掘孝典
本籍
三重県上野市猪田五四一一番地
住居
同県同市桑町一八八三番地
獣医師
廣岡小波
大正一五年八月一八日生
本籍及び住居
三重県上野市桑町一八八三番地
獣医院手伝い
廣岡邦子
昭和二七年一〇月二八日生
右両名に対する各所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官下川徳純出席の上審理して、次のとおり判決する。
主文
被告人廣岡小波を罰金一五〇〇万円に、被告人廣岡邦子を懲役一〇月にそれぞれ処する。
被告人廣岡小波において、右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
被告人廣岡邦子に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人廣岡小波は、三重県上野市桑町一八八三番地に居住し、同所において、「広岡獣医科」の名称で獣医業を営んでいるもの、被告人廣岡邦子は、右廣岡小波の事業専従者として経理全般を担当しているものであるが、被告人廣岡邦子は、同廣岡小波の業務に関し、同人の所得税を免れようと企て、売上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 平成四年分の被告人廣岡小波の実際所得金額が四六四二万四四八二円あったのにかかわらず、平成五年三月一五日、三重県上野市緑ヶ丘本町一六八〇番地所轄上野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二三五万九八六七円でこれに対する所得税額が七万三〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の正規の所得税額一七八二万九〇〇〇円と右申告税額との差額一七七五万六〇〇〇円を免れ
第二 平成五年分の被告人廣岡小波の実際所得金額が四八六二万五八二三円あったのにかかわらず、平成六年三月一四日、前記上野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二五一万六四二〇円でこれに対する所得税額が一一万六三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の正規の所得税額一九〇五万八五〇〇円と右申告税額との差額一八九四万二二〇〇円を免れ
第三 平成六年分の被告人廣岡小波の実際所得金額が五〇七三万九八八一円あったのにかかわらず、平成七年三月一四日、前記上野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四五一万九四九四円でこれに対する所得税額が二五万八五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の正規の所得税額一八一〇万八五〇〇円と右申告税額との差額一七八五万円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実につき
一 当公判廷における被告人両名の各供述
一 記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)甲一ないし23、乙1ないし4、6ないし15の各証拠
(法令の適用)
罰条 判示各事実につき(被告人両名)
所得税法二三八条
被告人廣岡小波につきさらに同法二四四条一項
刑種の選択(被告人廣岡邦子) 所定刑中懲役刑を選択
併合罪加重(被告人両名) 平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段
被告人廣岡邦子につきさらに同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定加重)
被告人廣岡小波につきさらに同法四八条二項(各罰金額を加算)、所得税法二三八条二項
換刑留置(被告人廣岡小波) 前同刑法一八条
執行猶予(被告人廣岡邦子) 前同刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、被告人廣岡邦子が被告人廣岡小波の経営する獣医院において経理全般を担当し、当該獣医業につき、その所得の一部を除外する方法で平成四年から平成六年分までの三か年分の所得税合計五四五四万八二〇〇円をほ脱した事案で、いずれの年の租税ほ脱率も約九九パーセントと極めて高率であり、その刑事責任は軽視できない。
しかしながら、本件犯行の態様はほ脱所得を郵便定額貯金としたり現金を単に金庫の中に入れていただけの単純なもので、巧妙に隠匿していたものではなかったこと、本件査察を契機に被告人廣岡邦子は経理担当者として、被告人廣岡小波は監督者として各々深く反省し、あらためて税理士の指導を受けるなどして資金財務管理の明確化を図り、今後における正確な申告を誓っていること、被告人廣岡小波においては、税に対する考え方の甘さを自戒し、税務署の担当官を招いて獣医師会の税に関する勉強会を開くなど公正な納税意識向上のために尽力していること、修正申告をして本税のほか延滞税及び重加算税のすべてを完納したこと、その他前科前歴が見当たらないことなど被告人両名にとって酌むべき事情もある。
そこで、これらの事情を総合考慮して主文の刑を量定し、被告人廣岡邦子については刑の執行を猶予することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 上本公康)